はじめに
飼育しているクワガタやカブトムシが亡くなってしまった時、標本として生きた証を残したいけど標本って難しいから… と言って敬遠してる人も多いと思います。今回はそんな方に対して、意外と簡単にできる標本の作成方法について私なりに紹介したいと思います。特別な薬品などは一切使わず、100円ショップや通販などで揃う道具だけで小学生でも手軽に作れてしまうので興味のある方は是非マネしてみて下さい。
昆虫標本とは
昆虫の標本では「乾燥標本」が主流となっています。虫の死骸の形を整え乾燥させて針で固定することで、数十年以上も外部形態を資料として保つことを可能にします。この乾燥標本は昆虫を分類する上で欠かせないものであり、現代では分類に使われるだけでなくコレクションやインテリアとして扱われることもあります。今回はそんな昆虫標本の作成方法をコレクター目線で簡単に紹介していきます。
必要な道具
標本の作成方法
⓪虫の死骸の保管方法
飼育中に死んでしまった虫を標本にする場合は、死後2日以内に飼育ケースから取り出す必要があります。取り出しが遅れてしまうと腐敗が進み、最悪の場合は激臭を放ったり足や触角が簡単にとれてしまって標本にすることができなくなるので注意しましょう。ケースから取り出した虫をすぐに標本にしない場合は、タッパーやジップロックなどに入れてから冷凍庫などで冷凍保存するか、タッパーの中に防虫剤や乾燥剤を一緒に入れてカラッカラに乾燥させるかして保存して下さい。冷凍状態や乾燥状態なら腐敗はあまり進みません。家族共用の冷凍庫にナイショで虫の死骸を入れると間違いなくトラブルに発展するのでやめましょう!
①軟化
この作業では、カラカラに乾燥して脚や触覚などがカチカチに動かなくなったものをお湯でふやかして形を整えやすくします。具体的には、タッパー等に昆虫の死骸を入れ上からお湯を注いで虫の体がふやけるまで10〜30分ほど待ちます。この時お湯の温度は50〜60度が理想ですが、クワガタやカブトムシのような大型の昆虫の場合は、電子ケトルで沸かした90度くらいのお湯で軟化させても大丈夫だと思います。ただし繊細な小昆虫を扱う場合は、温度の高い熱湯を使用すると体が壊れてしまう場合があるので注意して下さい。
お湯を注ぐ際に、食器用洗剤を1滴ほど混ぜることで虫にお湯が浸透しやすくなり、油っぽさも少しは軽減されるかと思います。虫の種類や状態によっては、内部に油分を多く含んでいるものや、表面に油が浮き出てしまって変色してしまうものがあります。油分や汚れは後に腐敗やカビ、害虫の繁殖の原因にもなりかねませんので、油分を多く含んだ標本は軟化作業の際に洗剤や薬品などを使って油抜きの処理をすることをお勧めします。(標本の油抜きについては追々記事にします…)軟化後は一度水分を拭き取ってから針刺し作業に移りましょう。
②針刺し
軟化した標本に昆虫針を刺して固定します。この時に使う針はなるべく昆虫標本専用の針をお勧めします。昆虫標本は保管方法にもよりますが、数十年〜数百年保存が効くものですので、その期間を耐えられる専用の針を選びましょう。安物のものや裁縫用の針などを使用すると、経年と共に錆びてしまうようで長期間標本を保存するのには向かないようです。昆虫針は様々な専門店で扱われていいますが、私の場合はむし社さんの通販サイトでよく購入してます。
私が使っているオススメの針→ 志賀昆虫針
また針には太さがあり、志賀昆虫針の場合は号数が針を太さを表しています。数字が小さいほど針は細くなり、大きいほど太くなります。クワガタの標本を作成する場合は、3号〜5号がお勧めです。針は細いほど昆虫に空ける穴を小さくできますが、細すぎると昆虫を刺す際に針が曲がってしまったり、昆虫の体を安定して支えられなかったりしますので、針の太さは虫の大きさや硬さにあったものを使うことをお勧めします。80mmを超えてくるような大型の甲虫に対しては4〜6号がお勧めです。
針を刺す位置は昆虫の中央を少し外したところです。これは標本の外部形態を残すという標本の目的上、真ん中から少しズレた位置に刺すことによって真ん中の構造を守るという意味があるそうです。右側に針を刺した場合は左側を観察することができますが、真ん中に刺してしまったら真ん中の構造がどうなっているのか確認ができないということです。クワガタ・カブトムシの標本の場合は右側の上翅に刺すのが主流のようですが、しっかりしたルールがあるわけではありません。
右上翅に針を刺す場合は、針が貫通した時に中脚の付け根に当たってしまわぬよう注意して下さい。理想は中脚と後脚の間に針を通すことです。
(針を刺すコツについては追々記事を書きます…)
また、針を刺すには小さい甲虫(30mm以下)の場合は針を刺さない乾燥標本の作り方があります。詳しくは↓こちらの動画で解説しています。
③展足
昆虫に針を刺したら次は展足作業です。展足には展足板と針を使用しますが、ここでいう展足板と針はなんでもいいです。私の場合は発泡スチロールの板とパール針を使用していますが、裁縫用のまち針でもなんでも構いません。とにかく針を虫の側面に沿うように刺して形を固定します。
小さい個体を扱う時はパール針はパール部分が邪魔になるので、展足の際に昆虫針を使ってしまうのもお勧めです。展足には決まった順番やルールなどはありませんが、基本的には虫の胴体を固定→大アゴなど大きな部分を固定→足の付け根を固定⇨触角や足の末端を固定という感じに、重要な部分を最初に固定して細部は最後に調節するのがお勧めです。
展足する時の虫の形についてですが、これも特に厳密な決まりはありませんので、自分の好みの形に整えてあげるといいかと思います。とはいったものの標本の用途によって形は考えた方がいい場合もあります。学術的な用途の標本の場合は、外部形態を観察することと、安全に保管することを重要視するので、最低細部が観察できるよう足を開きますが、開きすぎると標本箱のスペースを広く使ってしまうのでコンパクトに仕上げることが多いです。足の開きすぎは標本を扱う時に破損のリスクにつながりますので気をつけましょう。インテリアとして標本を扱いたい場合は、思い切って好きな形にしちゃいましょう!
私はというと、コレクション目的ではありますが標本箱のスペースをなるべく使いたくないので足はそこまで開きません。左右対称になうように注意して、後からサイズを測る機会があるのでアゴはその個体のサイズが1番長く測れる角度に開くようにしています。足は開きすぎず体と並行になるように調節しますが、前脚の符節と中脚の符節は少し外向きに開くのがかっこいいと思ってます。標本の形に悩んだ時は画像検索をしたり図鑑に載っている標本を参考にして展足するのもいいと思います。
(立体的なLIVE標本の作成についてはまた追々記事にする予定です)
④乾燥
展足で形を整えたら乾燥させます。風通しの良く直射日光の当たらない場所に1か月ほど置いておくというのが通説ですが、虫の体がカラッカラに乾燥すればなんでもいいので、私の場合は乾燥剤を入れたタッパーに2週間ほど入れて短期間で乾燥させています。また冬場はエアコン直下の棚の上に置いて直接温風が当たるようにすると数日でカラッカラになるのでお勧めです。人によっては食器乾燥機のようなものを使ったり、コタツの中に入れたりとユニークな乾燥方法があるようですが、途中で破損したり紫外線で変色してしまわなければ大丈夫だと思います。
虫の状態によっては腐敗臭がキツい場合もありますので、やはりタッパーが1番扱いやすいです。場合によっては匂いのある防虫剤で腐敗臭を誤魔化すのも手です。
⑤針抜き
虫がカラッカラに乾燥したらいよいよ展足に使った針を抜きます。この時が一番破損のリスクがあるので気をつけて抜いていきましょう。針を抜く時は体の末端から順に抜くことをお勧めします。
もし標本が破損してしまった場合や元々破損していたものを修復する場合は木工用ボンドで修正が可能です。学術的な標本においても標本を修正する際はお湯で接着を戻せるような木工用ボンドなどが推奨されます。具体的な修正方法は↓動画の16:38からご確認下さい。
⑥高さ調節
展足に使っていた針を抜いたら次は虫の針の高さを調節していきます。この工程は必ずしも必要ではありませんが、標本箱に昆虫標本を並べた時に虫の高さが揃っていると綺麗ですし特徴の比較や観察がしやすいので高さを揃えましょう。高さの調節には平均台という道具と使います。
平均台にはは階段状のものと真四角のものがありますが、個人的には真四角のタイプの平均台が扱いやすいと思います。この平均台は様々な深さの穴が空いてあり、平均台の穴に針を入れることで虫の高さなどを調節できます。この時に虫の脚や触角などが破損しないように注意しましょう。人によって標本の高さはそれぞれだと思いますが、私の場合は虫の上に針が12mm出るように調節します。厚みのある大型のクワガタやカブトムシの場合は虫の上12mmを確保することが困難な場合があるので、その時は適当に高さを決めちゃいます(他の人どうしてるのか教えて下さい!)。平均台は後述するラベルの高さを揃える時にも使用します。
⑦ラベル付け
標本には必ず情報をデータラベルとして添えてあげましょう。データラベルに書く情報は産地、採集年月、採集者などの情報です。飼育個体に関しては産地や羽化日の情報を載せるといいです。情報がわからなくなってしまった場合はわかる範囲で良いので、とにかく正確な情報をラベルに記載してあげましょう。
ラベルの例↓
作成したラベルは標本の下側に刺して扱うことをお勧めします。データの紛失を防ぐ為にも1本の針に標本とデータラベルを揃えましょう。極端な意見として「ラベルのない標本はただの虫の死骸」と言われることがあるくらいに標本においては情報ラベルが大切なのです。上から見た時にその個体の情報を見えるようにしたい時は、標本のデータラベルとは別に情報プレートを作ると良いです。
下に添えてある図、 情報プレート
⑧箱にしまう
データラベルを添えたら乾燥標本の完成です。標本は紫外線や湿気に弱く、色褪せたりカビたり害虫に食害されて破損してしまうことがあるので、機密性の高い標本箱などの入れ物で保管する必要があります。標本箱と言っても様々な種類や値段帯のものがありますが、ここでは「ドイツ箱」と言われるドイツ型標本箱を強くお勧めします。
ドイツ箱は標本箱の中でも最高級の部類ですが、大切な標本を数年以上保管したい方はこれ1択です。他の箱は一時的な保管には使えますが、長期保存には不向きです。(標本箱の種類については追々記事を書く予定です)
ドイツ箱に標本を入れる時は必ず箱に防虫防カビ剤を入れてあげましょう。防虫防カビ剤を入れないとカビや害虫の繁殖により大切な標本が見るも無惨な状態になってしまうことがあります(私も1度経験しました…)。防虫防カビ剤はいろんな種類がありますが、私の使っているのはネオパラエースです。
防虫防カビ剤は定期的に交換しましょう。保管場所の環境にもよりますが、ネオパラエースの場合は4ヶ月に1度の交換で十分だと思います。標本は直射日光に当たると色褪せてしまうことがあるので、標本箱の保管場所は日の当たらない風通しの良い場所がベストです。最近ではガラスにUVカット(紫外線カット)加工がしてある標本箱もあるようです。標本箱を複数保管している方には標本箱専用の収納場所として標本棚(標本タンス)がお勧めです。取り出しがしやすく、ホコリや紫外線から標本を守ってくれるので少し高いですがあると便利です。
終わりに
飼育している昆虫を標本にすることは、後になって想像以上に役に立つことが多いです。昆虫の分類学に携わっている研究者は日々沢山の標本を作成しますが、数十年前に作った標本を見返したら実は新種でしたってこともザラにあるようです。飼育においても標本から過去の個体と今の個体を比べたり、飼育方法や細かい産地・血統などの違うものを比べたりすることで新しい発見や気づきがあったりします。また、これは私の体験談なのですが、初めはコレクションとして自分だけで楽しむつもりでも、標本を集めるうちに突然イベントで展示する機会が訪れたり、ショップで飾らせて頂くことになったりと、思わぬタイミングで人の役に立つことがあります。標本作成は自分だけでなく世界も救うので是非作りましょう!
乾燥中の保管方法はありますか?
常温で保存して腐ったりはしませんか?
乾燥中もタッパーなど機密性の高い容器で保管するのがオススメです。
乾燥さえしていればその後腐ることは少ないですが、必ず防虫防カビ剤の交換を行いましょう。
昆虫標本される際は、
薬品で締めますか?
それとも、死ぬまで飼い続け
死んだ個体のみ標本されますか?
ケースバイケースになります。人それそれ死ぬまで飼育することをが目的なのか、綺麗な標本に残したいのか、何を一番に考えるかで選択肢が変わってくるかと思いますが、しっかり観察して死後2日以内に取り出してあげれば腐敗が進む前に標本に仕上げることができるかと思います。
死ぬまで飼い続けたほうがいいと思うよ
野外で取ったミヤマクワガタの71mmの大切なのから腐敗臭がします。 どうすればいいでしょうか
腐敗しているとバラバラになる可能性があるので難しいですが、どうしてもなんとかしたい場合は漂白剤に漬け込むか、アルコールで洗浄するといいかもしれません
昆虫標本にされる個体は死んだ個体のみですか?
薬品で締める場合ありますか?
先程コメントしましたが、反映されていなかったため重複されていたら申し訳ありません。
わたくわさんへ
漂白剤に漬け込むと、色が変化したりしませんか?
その、デメリットを教えてください!お願いします
つけ込みすぎるとやはり脱色したり、タンパク質が分解されて体がバラバラになってしまうこともあるので、漬け込む時間には注意が必要です。感覚的には2〜3時間くらいは大丈夫だと思ってます
あり後藤ございます
何とかできました
臓器はどうしますか?
酢酸エチルを使う場合は どれぐらいの時間で〆れるんですか
役に立ちました!! ありがとうございました。
初めまして、わたくわさんのクワガタ情報を参考にささていただいております。
いつもありがとうございます
初めて飼育したノコギリクワガタが亡くなり、標本にしようと死後一日目で冷凍保存しました。
解凍後1日2日乾燥させた方が良いのか
解凍後ぬるま湯で軟化させて
そのまま展足しても問題ないのか
教えて頂けますでしょうか
わたくわさんいつもクワガタ情報ありがとうございます
死後1日以内のノコギリクワガタを標本にする為冷凍保存しました。
解凍後1日2日乾燥させた方がいいのか
解凍後、ぬるま湯で軟化させてそのまま展足しても良いのか教えていただけないでしょうか