はじめに
ペレン島産のメタリフェルは、基本的に銅色、金色、褐色などの個体が多く、これらの色の個体はノーマルカラーと呼ばれたりしますが、時々青みの強い個体が野外品の中に混ざることがあり、青い個体は比較的高値で取引されることが多く、生体でも標本でも青い個体は重宝されています。
私も青いメタリフェルが好きで、今でこそ遺伝的に青いメタリフェルを作出することに成功しましたが、我が家の青いメタリフェルは元々紫系統の色から始まり、徐々に青くしていった経緯があり、どこか野外品の青とは質感が違うので、色の発現メカニズムが異なるものだと考えています。
私も過去に野外品の青い個体を繁殖させたことがあり、次世代の色が全てノーマルカラーになったことがあります。野外品の青いメタリフェルは毎年それなりの数輸入されていて、私以外でも野外品の青いメタリを累代繁殖させている人は多いはずなのですが、野外品の青い形質を固定化させたり、飼育下で青いメタリを安定して羽化させた人の話をあまり聞かないのです(眉唾物の情報は時々ありますが…)。つまり野外品の青は、遺伝要因だけで発現する形質ではなく、何かしらの環境要因がメタリフェルを青くしているのか、遺伝要因と環境要因が重なった時に青くなるのではないかと予想することができます。
野外品のメタリを青くする要因として、現地の気候や土壌など、具体的には温度や湿度、pH、土壌中の成分等、さまざまな仮説がある中、メタリフェルの標本に紫外線を照射し続けたら2週間くらいで青くなったという情報がXに投下されました。紫外線による標本の変色は他の昆虫でもよく起こる現象で、ヘラクレスに紫外線を当て続けると上羽が青白く変色したり、タマムシなどの構造色を持つ甲虫では、青っぽく変色することが多々あります。
そこで仮説を立てました。メタリフェルは野外で直射日光を浴びることによって青く変色しているのではないか。これを検証するために、元々ノーマルカラーの野外品メタリフェルを入手し、飼育下で紫外線ライトを照射しながら飼育することによって、生きた状態でメタリフェルを青くすることができるのかどうかを実験することにしました。
方法
野外品のメタリフェルを2ペア購入し、爬虫類用のUVライトで照射しながら様子をみます。
使用した紫外線ライト
・REPTILEUVB150(爬虫類ライトUVB150)
爬虫類用のライトの中でも、サバンナや砂漠地帯の爬虫類用のUVBが強いライトを選びました。かねだいで電球とソケットあわせてだいたい5000円くらい。紫外線にはUV-AとUV-Bの2種類の波長があるようで、今回選んだライトはこのUV-Bが多く照射されるタイプです。

距離10cmぐらいの運用なので、紫外線強度はUVAで約1,150μW/c㎡、UVBは約195μW/c㎡ ※μW/c㎡は紫外線強度の単位
ちなみに太陽光の紫外線強度は数千μW/c㎡〜数万μW/c㎡になると言われていますが、今回はUVAでなくUVBだけを考慮して実験・比較していきたいと思います。参考までに人間が日焼けする紫外線強度の目安のUVBの条件は2,000μW/c㎡で10分以上 1時間以内と言われているので、この数値を太陽光と仮定すると↓
REPTILEUVB150(照射距離10cm)= 195μW/c㎡
太陽光(人間が日焼けするレベル)= 2,000μW/c㎡
太陽光はライトの約10倍紫外線強度が強い。
上記の情報を考慮すると、今回実験に使うライトの紫外線強度は太陽光の約1/10程度だと想定されます。
被験体
むし社の年始セールで購入したペレン島の野外品メタリフェル×2


サンプル①(左側)は暗めの銅色色。
サンプル②(右側)は銅〜金色で複眼の近くや大アゴの縁が既に青くなっている個体
野外品として入荷されてすぐの個体のようで、欠けの無い元気な個体を選びました。サイズは75~79mm。
実験環境
実験中はなるべく生体に紫外線が当たるようにするため、狭い容器を選びました。UV-Bはプラスチックの蓋などの遮蔽物を透過できないそうなので注意しましょう。


↑硬質クリアボトルにそれぞれ床材と餌ゼリー、野外品メタリフェル♂を入れ、フタをしない状態で近距離から紫外線ライトを照射しました。最初の7日間は左の画像のように、脱走防止でふるいを上に被せてましたが、脱走する気配がないのと、もっと遮蔽物を減らして近距離で紫外線を照射した方が良いと判断した為、8日目から右写真のようにフタ無しの状態で管理しました。ライトの熱が実験の障害になることを懸念していましたが、ライトが近接してもクリアボトルが発熱することはなく、生体も1〜2日おきにゼリーを交換し霧吹きで加湿していれば、24時間紫外線照射を継続しても健康状態に問題はなさそうでした。、また、定期的に左右の位置を交換することで、2個体の紫外線照射条件に差が出ないようにしました。
結果
最終的に17日間の紫外線照射を行いました。





↑サンプル① 0日目、8日目、13日目、15日目、17日目





↑サンプル② 0日目、8日目、13日目、15日目、17日目
最初の7日間はあまり変化が見られず、ふるいのフタを取り除いても脱走しないと判断したので、ここでフルイを除去してライトの位置をさらに近づけました。その結果、8日目以降はサンプル②の色変化が目に見えて現れるようになりました。15日目のサンプル②は目に見えて青く変色していましたが、サンプル①は最後まであまり変化が見られませんでした。
今回の実験により、メタリフェルホソアカクワガタ ペレン亜種をUVBの紫外線強度約195μW/c㎡の紫外線に15日間(約360時間)晒すことによって、青色に変色する個体と、あまり変色しない個体がいることがわかりました。
考察
野生個体が太陽光によって青く変色する可能性
UVB 195μW/c㎡を360時間照射することによってサンプル②が青く変色したことを踏まえ、10倍の紫外線強度を浴びると10倍の速さで青色化が進むのであれば、UVB約2000μW/c㎡程度の太陽光を累計36時間ほど浴びるこで青色化が起こると想定されます。
実験下で青色化までに必要だった紫外線量: UVB約200μW/c㎡ × 360時間
想定される野外での青色化までの紫外線量: UVB2000μW/c㎡ × 36時間 (約10倍の強度で1/10の時間)
メタリフェルは昼行性で、晴れた日に木の上部の枝に止まる習性があるよう(むし岡だいきさんのメタリフェル採集動画参考)で、野生下でも直射日光に晒される時間は少なくないと想定されます。仮に1日2時間ほど直射日光を浴びたとするなら、約18日で青色化の条件を満たすことになるので、野生個体が太陽光の紫外線によって青く変色するという説は、もしかしたらいい線いっているのかもしれませんね。
UVB2000μW/c㎡ × 2時間 × 18日 = 青色化の条件?
この説を証明する為には、そもそも10倍の紫外線強度で10倍早く変色するのかという問題や、実際に現地の太陽光の紫外線強度や日照条件、野生下のメタリフェルが実際にどの程度直射日光を浴びているかなどの条件を調べる必要があります。
青色化の個体差
今回の実験では、サンプル②がしっかり青色に変色したのに対して、サンプル①はあまり変化がみられませんでした。この結果から、青色化の条件にも個体差があることが考えられます。
野外品として入荷してくる生体は、濃い青の個体から、中途半端に青い個体、全く青くない個体など、多様なパターンの個体がいるのですが、その色の差が生まれる理由を考えた時に、紫外線に晒された時間の差と、青色化の個体差があることで、色の差が生まれるという説明ができてしまいます。
日照条件と、青色化しやすいという個体差の性質が重なった時にだけ青い個体が現れる。それを部屋で飼育しても子孫が青くならないのは当たり前です。
過去にメタリフェルコンテストという企画行ったのですが、応募者の1人(No.1 グッキーさん)がノーマルカラーの次世代から青いメタリフェルを羽化さたという情報がありました。その飼育コメントを見ると、”三月下旬頃から羽化まで室外飼育”とのことでした。当時は春先の低温条件や温度差が影響していたのかもと推測していたのですが、もしかしたら室外で直射日光に当たったことが影響しているのかもしれませんね。断定はできませんが紫外線説の可能性が残りました。

まとめ
今回の実験で、生きた状態のメタリフェルを紫外線ライトで青くすることが可能だとわかりました。この情報を悪用して、紫外線でノーマルカラーの個体を青くして価値を釣り上げて販売するようなことはマジでやめて下さいね。みっともないですよ。
とはいえ、自然下で青くなっている説が的外れではなさそうなのには驚きました。メタリフェルはペレン亜種で青色の個体がそれなりの数流通しているのに対して、原名亜種などでは青色の個体をあまり見ない印象です。単に現地で採集される絶対数が少ないので、青が持ち込まれにくいだけの可能性もありますが、その土地の日照条件やメタリフェルの生息環境、生態の違いによる直射日光に晒される時間の差、体表構造の軽微な違いによる青色化のしやすさ等、細かい条件が亜種ごとに異なっていて、ペレン亜種が最も青色化しやすい条件が揃っているのかもしれませんね。
構造色をもつ昆虫で、羽化後活動を開始してから紫外線によって体色が変わるという例が他の昆虫にもあるのか気になるところです。炎天下の日中に木の上を飛び回るヤマトタマムシなども、炎天下で亡くなってしまった個体などは青色に変色することはありますが、生きた状態で青色に変色した例は聞いたことがなく、他の甲虫でも、紫外線由来と思われるような色彩変異個体の例をあまり聞かない印象です。この件で、何か知っている方がいましたら、コメント欄で情報提供してくださると嬉しいです(他力本願失礼します)。
野外品の青を飼育下で再現する為に、マットに苦土石灰を混ぜ込んでpHをアルカリ性にしたり、温度差や高湿度がカギなのでは無いかと頭を悩ませていた時代がありましたが、今の私の中では紫外線説が最も有力になってしまいました。もし他に、野外品の青を再現することができる条件についての知見をお持ちの方がいましたらこっそり教えて下さい。教えていただいた情報は盛大に公開しますのでご注意下さい。
余談ですが、この記事の内容をこちらの動画でも紹介してます。17日目の個体も動画で登場するので、気になる方ご覧いただけると幸いです。

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